寄藤文平「デザインの仕事」

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いわゆるビジネス書・指南書のように体系立ててまとまってる本ではありませんが、寄藤さんの経験に基づく、デザイン・イラスト・広告に対しての考えが綴られた体験的仕事論です。

言葉の力

本書の中で、論理的な言葉の力について度々触れています。
例としてあげていたのは、佐藤可士和さんについて。可士和さんは、大貫卓也さんのように誰が見ても面白い広告をディテールを詰めて作るというスタイルとは逆に、そのディティールさえもいらないとデザインの文脈を転換させました。
どういうことかと言うと、ビジュアルをシンプルににし、さらにそれをアイコン化してしまうということ。例えばSMAPの有名な赤青黄のCDジャケットのように。そのアイコンを支えるものとしてストーリーが大切と述べています。そのことによって、デザインの中心がビジュアルよりも、アイコンとストーリーの組み合わせに移行しました。
寄藤さん自体は本来は論理的ではなく、誰かに説明するために論理的にしないとと癖がついているだけ。ストーリーを語る場、つまりプレゼン能力のウエイトが増していく現状がそうさせているのでしょう。
ただ、感性の中の論理を考えるとか、デザインの意義や意味をことばで突き止めるとか、言葉で伝えうる領域について知見がひらけて行けばいくほど最終的には、それだけでは捉えることのできない部分が大きく残ってしまう。このクリエイティブの狂気みたいなところのエネルギーを、抜きにして説明しようとするのは、間違いとも述べています。

ブックデザインの仕事

ブックデザインについての考え方を述べている章があるのですが、特に装丁の仕事をされている方は非常に参考になると思います。原稿の読み方から、デザインのスタイルをテンプレ化してストックしていくことなど、寄藤さんのブックデザインの手法が書かれています。
その中で一番印象に残った点は「いい本」と「売れる本」の両方を兼ね備えられるデザインとは何かについてです。それは「タイトルをでかくする」こと。それに尽きるそうです。以外なほどシンプルな答えですが、内容をしっかりと自信を持って伝えるにはこの手法が一番いいそうです。

寄藤さんの印象

寄藤さんと言えば、親しみやすくコミカルなイラストのイメージが強いですが、その印象とは裏腹に、非常に冷静に物事を分析、理解しているように感じました。 東京オリンピックのエンブレム問題、近年のストーリーを重視したプレゼンなどに言及しており、デザイン業界のメインストリームの少し離れたとこから世の中を達観してるような存在に感じました。このように本人がすごい分析力があって、冷静でいるから、逆にユーモアのある広告・イラストを制作できるのかなと感じました。
寄藤さんの仕事、人柄が気になる人にはオススメの一冊です。